星に願いを 4話




「かずま〜、ちょっと待ってよぉ」
「またか、どうかした?」
「和馬歩くのはやい〜、もっとゆっくり歩いてよぉ」
一応の身支度も終え、出かけた二人だが歩く速さが違うためすぐに間が空いてしまう。
「そんなこと言ったって、俺はいつもどおり歩いてるけど…ああ、そっか」
和馬は理由に思い当たったのか、自分を見上げている理帆の頭に手を置く。
「えっ?ちょっとなに?」
「そういえば、理帆小さくなってたなって。そりゃ歩幅が違って当然だな」
頭を撫でられて焦る理帆の頭をさらに撫で回しながら呟く。
「っもう、髪ぐしゃぐしゃになっちゃうじゃない。和馬が歩幅合わせてくれないなら、こうしちゃうから」
頭を撫で付ける和馬の手を払い、そのままその腕に抱きつく理帆。
「い、いや、それは非常に歩きづらいからせめて手をつないでくれないか?」
「え〜?こっちのほうが和馬にくっついてられるからいいのに〜」
和馬が腕から理帆を引き剥がすと、文句を言いつつもしっかりと手をつなぐ理帆。
「ところで、どうしてこんなことになったか心当たりない?」
「心当たりって言われても、特に変なことはしてないよ?夜に星を見たくらいかな」
昨夜のことを思い出して、話す理帆。和馬も心当たりを探すが昨夜は酔いつぶれていたため記憶がほとんど無い。
「昨日は、理帆とけんかしてから酔いつぶれてたから、何にも覚えてないな」
「めずらしいよね、和馬があんなに酔っ払うなんて」
「そういえば、そうだな。もしかしたら初めてかもな」
「和馬お酒強いもんね〜。私なんて、ちょっと飲んだだけですぐ酔っ払っちゃうもん」
以前飲み会をした時のことを思い出したのか、複雑な表情で笑う理帆。
「まあ、どっちにしろ当分酒は飲めないけどな」
「え?どうして?」
言い切った和馬に、理帆が聞き返すと
「お酒は20歳になってからって言うだろ?」
「む〜、私21だもん。言っとくけど、和馬より年上なんだからね」
からかうように言った和馬の言葉に怒ったのか、頬を膨らませ見上げてくる。
「だもんって、なあ理帆、なんかさ言葉遣いが幼くなってない?」
和馬はずっと感じていたことを口にする。
(体が小さくなったからかな、仕草も子供っぽいし、しゃべり方もどこか幼い。それにさっきのお漏らしも…)
そう考えながら理帆の体をじっと見ていると、視線に気付いたのか理帆が腕を引っ張る。
「な〜に?人の顔をじっと見ちゃって。もしかして、私のかわいさにほれ直した?」
「なっ、そんなことあるかよ。お子様には興味無いよ」
そう言って和馬はまた考え事を始める。理帆は和馬の言葉に怒って腕を引っ張ったりしているが和馬は気にする様子も無い。
(流れ星に願い事するって言うけど、あんなの迷信だろうしなぁ。)
「でも、昨日の流れ星きれいだったな〜。流星群なんてめったに見れないもんね、和馬も起こしてあげればよかったね」
理帆は何気なく言ったが、和馬はその一言で険しい表情になる。
「な、なに?どうかした?」
「いやな、考えてみたんだけどさ、もしかしたら理帆が小さくなったのって昨日の流星群と関係があるんじゃないかな?」
いたってまじめにそう言い切る和馬に、理帆は思わず噴き出してしまう。
「なっ、なに笑ってんだよ。こっちはまじめに考えてるんだぞ」
「うっ、うんっ。それはっ、わかってるんだけど…ごめんっ、ね」
一応謝ってはいるが理帆の笑いが止まることはない。和馬は理帆が笑い止むまで再び考え込むことにする。
(とりあえず、原因については置いといて、これからのことを考えないとな)
二人ともマンションで一人暮らしをしているので周囲に簡単にばれることは無いが、大学の授業をどうするかで考えが詰まってしまう。
「なぁ理帆。これからのことだけどさ、うちで一緒に暮らすのに問題ないだろ?」
「んぅ?…うん、あたしとしてもそっちのほうが助かるし、問題ないよ?」
少し考えはしたが理帆の返事にひとまずほっとする和馬。
「あとさ、大学はどうしようか?さすがにその体で行く訳には行かないしさ」
「あっ、そっか。この体で行ったらみんなびっくりしちゃうよね、……う〜ん、どうしよっか?」
理帆に一応聞いてみるが答えは返ってこず、二人して悩んでいるうちに目的地のデパートに着いてしまう。
「とりあえずは置いといて、今はお買い物しよ?」
「そうだな〜、こうして悩んでてもしょうがないし、そうするか」
二人ははぐれない様に手をしっかりと結ぶと休日で人の溢れる店内へと入っていった。

「ねぇねぇ、これはどう?」
「ん〜、あぁ、いいんじゃないの?」
デパート二階にある子供服売り場、その試着室の前で手当たり次第に服を体に当てる理帆と、適当に答える和馬。
「和馬、ちゃんと見てる〜?」
「ん〜、あぁ、見てるよ」
「じゃあじゃあ、これとこれ、どっちがいい?」
和馬としては女の子の洋服選びに付き合うだけでも苦痛なのに、既に一時間が経とうとしている。
「ん〜、そうだな…」
理帆が差し出したのは、白いブラウスと紺のミニスカートの組み合わせと、フリルのたくさん付いた黒いワンピースとゆう対照的な二着だった。
「それじゃあ、こっちかな」
和馬はしばらく悩んでから、ブラウスとミニスカートの組み合わせを選ぶ。
「あ、やっぱり?あたしもこっちがいいかな〜って思ってたんだ」
「それなら最初からそっちにすればいいんじゃ…」
「わかってないなぁ、和馬に選んでもらいたかったの。それじゃあ、ちょっと着てみるね」
理帆はそう残して試着室のカーテンを閉める。和馬は揺れるカーテンを眺めながら大きくため息を付くのだった。

「まったく和馬ったら、女心ってものが分からないんだから」
試着室に入った私は和馬の文句をつぶやきながらTシャツを脱いでいく。
唯一身に着けていたTシャツを脱ぐとオムツだけを身に付けた私の姿が鏡に映し出される。
「それにしても、ほんとに小学生の時の体だよね。懐かしいな」
先に買っておいた肌着を袋から出しながら、小さくなってしまった自分の体を見ながらつぶやく。
それにしても、当時の私はこんな体だったろうか?記憶ではもう少し胸があったように思うけど。
数年ぶりに身に付ける女児用の肌着はどこかゴワゴワしていて落ち着かない。
「んっ、あとでトイレいこっと……えっ、やだ、どうして?」
不意に強い尿意を覚えた私は無意識にオムツの上から股間を押さえた。
すると、押さえた手にオムツごしにおしっこが出ている感触が伝わってくる。
そして、ほぼ同時にオムツの中をおしっこの温かさが広がってくる。
「んっ、やだ、とまってよぉ……んぅっ」
おしっこを止めようと必死に力を入れるけど、それも虚しくおしっこは全て出きってしまう。
わたしがどうすることもできないまま、オムツの温かさを感じていると外から和馬の急かす声が聞こえてくる。
「ごめ〜ん、もうちょっと待って〜」
わたしはなんでもない風を装い、オムツはどうしようもないのでそのままにして急いで着替える。
外に出る前に鏡を見てみるとお尻の辺りが大きく膨れていた。
わたしは、和馬が気づかないことを祈りつつカーテンを開けた。

「お、やっと出てきたな。…うん、似合ってるじゃないか」
「う、うん。ありがと」
カーテンを開け、恥ずかしそうに出てきた理帆の姿を見て和馬が褒めると、理帆は顔を赤くしてつぶやく。
「…ん〜、理帆。ちょっと回れ右してみて」
「ま、まわるの?」
「うん、ちょっと後ろの方も見てみたいから」
和馬は単純に後姿も見てみたいから言ったのだが、理帆はおむつが気になったが嫌がると気付かれそうなので素直に半回転する。
「ん、これでいい?」
半回転した理帆は膨らんだおむつに気付かれないようにお尻の上で手を組む。
「うん、…いい感じだな。理帆、ちょっと手どけて?」
「え、う、うん」
拒むこともできず、理帆は言われたままに組んだ手を解き、胸の前へと持っていく。
「……うん、大丈夫だな。これだけでいい?一着じゃ足りないだろ?」
「う、うん。それじゃあ、これもいい?」
「ああ、もっとも出すのは理帆の財布からだし」
「ええっ、和馬出してくれないの?」
洋服代をてっきり和馬が出すものだと思っていた理帆は思わず大声を上げる。
「あのなぁ、そんな金あるわけないだろ」
「そうだよねぇ、和馬、給料前だもんねっ」
「それは、理帆も一緒だろ。月末なんだし」
「それもそうだね。……あたしもあんまり余裕ないかも」
改めて自分の財布を確認した二人は同時に肩を落とす。
「とりあえずそれは俺が買ってやるよ。最近服とか買ってやってなかったし」
「いいの?それじゃあおねがい」
理帆はおむつが濡れているのも忘れてはしゃいでいる。
「それじゃあ、会計してくるから大人しく待っててな」
和馬は理帆の頭を撫で回してからレジへと向かう。
「もうっ、かずま〜」
理帆は文句を言いながら髪を撫でているが、その顔はしっかり緩んでいた。

「お待たせ」
「もうっ、おそい〜」
和馬がレジに向かって数分、理帆がすっかり待ちくたびれた頃に和馬は何食わぬ様子で帰ってきた。
「いや〜、レジの人にいろいろ聞いてたら遅くなった」
「いろいろって、何聞いてたの?」
尋ねる理帆の言葉に和馬は無言で紙袋を差し出す。
「?これ、あたしに?」
「ああ、たいしたもんじゃないけど」
紙袋を受け取った理帆が中を覗くと子供服が数着と女児用の下着が数枚入っていた。
「え?和馬これ…」
「ん、まあ、誕生日のプレゼントもまだだったしな」
と照れながらいう和馬。理帆はそんな和馬を見て、満面の笑みを浮かべている。
「ありがとう、和馬っ」
うれしさのあまり和馬に抱きついた理帆だが、その拍子に和馬の足におむつが触れる。
「あっ……」
「ん?どうかした?」
「う、ううん、なんでもない……」
理帆は何でも無いと言うが、和馬は理帆の様子に気付いたようで難しい顔をしている。
「それじゃあ、そろそろいこっか。その袋も一緒に持つから貸して」
理帆の手から先程の紙袋を受け取り、肌着を買ったときの袋も渡すよう和馬が言う。
「……ん」
理帆は和馬のほうを見ずに袋を差し出す。
「さんきゅ……あれ、理帆?パンツどうしたの」
「あ、えと……その……」
理帆はおむつのことを考えるのに一杯で袋の中に未開封の女児ショーツが残っているのを忘れていた。
「まだ、おむつしてるの?」
「……うん。…その、もしかしたら、また漏らすかもしれないし…」
「理帆がしてたいのなら、いいけど。濡れたらちゃんと言えよ?」
「……うん」
「お腹減らないか?もうお昼だし、下に降りよっか」
「うん…」
和馬は荷物を持っていないほうの手を理帆のほうに差し出す。
理帆は躊躇いがちに手を繋いだ。

「理帆、ちょっと寄り道するから」
「うん、どこによるの?」
「ん、ここ」
和馬が立ち止まったのは薬局コーナーの前。和馬は何も言わずに理帆の手を引いてどんどん歩いていく。
「ちょっ、かずま〜、歩くの早いよー、どこまで行くの?」
「あっ、ごめん。もう着いたよ」
和馬の早足の歩幅に合わせて走ったので理帆の息は軽く上がっている。
「もうっ、そんなに急いでどこに連れて…来たのよ…」
息の整った理帆は顔を上げ、目の前の棚に並んでいる物を見て言葉を失う。
「和馬、どうしてこんなとこに?」
二人が辿り着いたのはベビー用の紙おむつ売り場だった。
「だって、理帆のおむつ濡れてるだろ?」
和馬の言葉にしばらく黙り込む理帆。
「……いつ、きづいたの?」
しばらくして、理帆が震える声で聞いてくる。和馬は少し考えてから
「ん〜なんとなく気付いたのは試着室の前で後ろ向いてもらった時かな。なんかお尻が膨らんでるなって」
「うん」
「それで、確信したのは理帆が抱きついてきた時。明らかに柔らかい感触がしたから、それで」
「そっか、やっぱりあの時かぁ。あたしもそんな気がしてた、和馬の様子がなんとなくおかしかったから」
あの時、はしゃいでいた理帆自身も和馬の足におむつが触れたことでおむつが濡れていることを思い出している。
それほどの感触があったなら和馬に伝わっていてもおかしくは無い。
「それにあれほど嫌がってたおむつを穿き替えるパンツがあるのにまだしてたのもちょっと気になったし」
「…あ、のね、試着室の中でね、着替えてる時に漏らしちゃったの」
理帆は涙声でゆっくりと喋り出す。
「それで、がまんしなきゃって思って、手で押さえてもだめだったし、我慢しようと思っても出来なかったの」
なんとかそこまで言うと理帆は和馬に抱きついて泣き出す。
和馬は何も言わずにただ理帆の頭を撫でていた。

「ん、ありがと和馬。だいぶ落ち着いたから」
しばらく撫でていると理帆が自分から体を離し、涙の溜まった目をこする。
「それで、ここに連れて来たってことは、あたしにおむつを選べってことでしょ?」
「ああ、理帆がその体に慣れるまでは今朝やさっきみたいに失敗することがあるかもしれないだろ?」
理帆の言葉に答え、そこまで言うと和馬はいったん言葉を切る。
「それに…家でならいいんだけど、外に出てるときに失敗したら理帆も嫌だろ?」
「うん、それはやだよ。それにあたしも自分じゃどうしようもないのはもうわかったから」
理帆ははっきりとそう言うと棚の前へと歩いていく。
「ねぇ、和馬。どれがいいのかな?」
「ん〜俺にもどれがいいんだか。聞いてみるか?」
二人してしばらく手にとって比べてみるが、いまいちどれがいいのかわからない。
ちょうど、店員が近くを通りかかったので和馬が声をかける。
「すみません、紙おむつが欲しいんですが」
「はい、どのくらいのお子さんがされますでしょうか?」
店員の問いに和馬は一瞬理帆を見る。
店員もその視線を追う。そして理帆の膨らんだお尻に気付き、意外そうな顔をする。
「えっと、こちらのお嬢さんがされるんですか?」
「え、ええ、そうです」
店員の視線に恥ずかしくなった理帆は和馬の後ろに隠れてしまう。
「そ、そうですね。お嬢さんくらいの年齢で日中もされるんでしたらあまり目立たないのがいいでしょう」
「そうですね、そんな感じのでお願いします」
和馬の言葉を受け、店員は二つのおむつを持ってくる。
「こちらはほとんど下着と変わらない厚さですから、外出の時はこちらが目立たないですね」
「はぁ……」
「あと、こちらは、ちょっと厚めですけど、吸収量が多いので長時間でも安心ですね」
「夜用、みたいな感じですか?」
「ええ、まあ。ちなみに、おねしょも?」
和馬はしばらく考え、首を縦に振る。
「でしたら、夜はこちらの方がいいと思いますよ。もちろん昼間使われても問題ないですけど」
店員は熱心に説明してくれるが、和馬はほとんど聞いていなかった。
さっきからシャツの裾を掴んでいる理帆の手が小刻みに震え始めているのだ。
(もしかしたら、おしっこ我慢してるんじゃ?)
「あの、その二つ、両方もらいます」
「え?あ、はい。」
和馬の声に一瞬固まった店員だがすぐに持ち直しおむつを持ってレジへと向かっていく。
和馬は理帆にその場にいるように言い、レジに向かう。
「か、かずま…」
一人だと心細いのか、レジに向かう和馬を理帆は震える足でゆっくりと追い始める。
「それでは、3000円になります」
店員の声を受け、和馬は急いで財布から紙幣を取り出す。急がないと間に合わないかもしれないのだ。
「かずま〜」
小さく震える声に振り返ると、理帆が今にも止まりそうな速度でこちらに向かって歩いてくる。
「理帆、もうちょっとだから待ってて」
和馬がおつりとおむつを受け取り理帆に向かって歩き出すと同時に理帆の動きが止まる。
「理帆?」
和馬の言葉にも理帆は反応せず、ただ内股の状態で立っている。
「……あ、やだっ」
理帆が小さく言葉を発すると同時に、理帆のスカートの中から水滴が落ちてくる。
それは次第に量を増し、ついには一筋の水流となって床に落ちていく。
(間に合わなかった)
どうやらおむつが吸い切れなかった理帆のおしっこがおむつから溢れだしているようだ。
「あっ、ああああぁぁぁ」
理帆はそのままおしっこの溜まった床に座り込み泣き出す。
和馬と店員はただその光景を見ていることしか出来なかった。


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