星に願いを 3話




「ねぇ、ほんとにこれで買い物に行くの?」
マンションの玄関で理帆が外出の支度をしている和馬に尋ねる。
「特に問題は無いんじゃないか?ちゃんと服も着てるし…」
「だから〜、その服が問題なのっ。こんなぶかぶかのTシャツ一枚じゃ恥ずかしいよぉ」
そう泣きそうな声で言って、理帆は大きく開いた胸元の布を手繰り寄せ、見えないようにする。
「んなこと言ったって、それでも持ってる中で一番小さいやつなんだけど。それに下はしょうがないだろ。
とてもじゃないけど理帆が履けるサイズじゃないし、理帆のスカートにしたってそうだろ?
とりあえず、向こうに着いたら一番先に買ってやるからそれまで我慢してよ。ワンピースに見えなくも無いって」
和馬は理帆をなだめながら支度を終える。
理帆はまだ言いたいことがあるらしく、和馬をじっと見ている。
「ん?まだなんかある?」
すると理帆は急に視線を和馬から外し、顔を赤らめてうつむく。
「…えっと、その……スースーして落ち着かないの……」
それだけを消えそうな声で言うと左手で胸元を、右手で股の辺りを押さえる。
「あ〜、そういえばそうだったな。…んなこと言っても、今の理帆にちょうどいいパンツなんて…」
言いかけて、和馬は押入れを開け、奥の方を何やら探っている。
「かずま〜?どうしたの急に」
「………」
何をしているのか不思議に思った理帆が声をかけるが返事は無い。
しばらく待っていると何かを手に和馬が出てくる。
「とりあえず、代わりを買うまでそれ穿いて我慢してよ」
和馬は探し出した物を手渡しながら理帆に言う。
「うん、ありがと…って、何これ?」
「何これって、紙おむつ。CMでよくやってるだろ?」
「そうじゃなくて、どうしてこんなの和馬が持ってて、それを私が穿かなくちゃいけないの?」
理帆は渡されたおむつに驚きながらも、なんとか疑問を口にする。
「前に従妹が泊まりに来た時に忘れてったのを思い出してさ。
パンツの代わりだよ、ずっと着けてろなんて言ってないだろ?それにそのサイズなら理帆でも穿けるだろ。それに……」
理帆は言われて改めて手に持った紙おむつを見てみる。和馬が何か言っているが理帆の耳には入っていない。
(ふ〜ん、色はピンクかぁ、割とかわいい感じね。それに思ってたよりももこもこしてないのね。これならそんなに目立たないかしら)
理帆はおむつを観察しているうちにだんだんと穿きたくなって来たのか、和馬を上目遣いに見る。
「ん?どうかした?」
和馬もその視線に気づいていたがあえて気づかない振りをする。
「えっと、あ…のね、…むつ穿くから、後ろ向いてて」
「なに?ちゃんと聞こえなかったけど」
もちろん和馬は理帆がおむつを穿きたいと言ったのも分かっていたが、その様子があまりに可愛くつい聞こえていない振りをしてしまう。
「えっ?だ、だから……おむつ穿きたいから、後ろ向いてて、って言ったの」
理帆は顔を真っ赤にして和馬に叫ぶ。和馬は何も言わずに片手だけ挙げて後ろを向く。
「いいって言うまで振り向いたらだめだからね」
理帆は念のため和馬の背中に釘を刺す。それに手を振ることで和馬は応える。
理帆は和馬が後ろを向いたまま動かないのを確認してから、おむつに左足を通す。
「…絶対こっち見ちゃだめだからね」
二人は背中合わせに立っているが、和馬が動いたような気がして理帆は牽制する。
(なんでわかったんだ?あいつは背中に目でもあるのかよ)
実際に動こうとしていた和馬は理帆の声に飛び上がりそうになりながら、声を抑えていた。
理帆は片足を通した格好のまま首だけ後ろを向き、和馬が動いていないことを確かめて右足も通す。
(う〜、穿かないとどうしようもないってわかっててもやっぱりちょっと。
 …しょ、しょうがないわよね。パンツ買うまでの代わりよ、代わり)
おむつに両足を通したままの格好でしばらく悩んでいた理帆だったが、ようやく気持ちの整理がついたのか、おむつをつかむと一気に腰まで引き上げた。
「あ、なんか思ってたよりも気持ちいいかも」
腰周りを覆ったおむつの感触の意外な気持ち良さに思わず感想を漏らしてしまう理帆。
「なんか言ったか?」
「なっ、なんでもないっ。そ、それより、もうこっち向いてもいいよ」
和馬はよく聞き取れなかったため、声をかけるが理帆に怒鳴られる。
「どれどれ、どんな感じになったかな?……以外に普通だな」
「あ、当たり前でしょ。そもそも、どんなのを想像してたのよ」
振り向くなり失礼なことを言う和馬に理帆が怒鳴る。
「…いや、別にぃ。……それより理帆、ちょっといいか?」
「え?ちょっと和馬、なにするの?」
「いいから、いいから」
戸惑う理帆をなだめながら和馬は理帆のTシャツの裾に手を伸ばす。
「え?やだっ、やめてよっ」
「大丈夫、何にもしないよ。ただ、ちゃんと穿けてるか見たいだけ」
理帆の止める声も聞かずに、和馬は裾を捲り上げる。
「ほら、持ってて」
「う、うん…」
裾を理帆に持たせると、和馬は理帆の腰周り、特におむつをしっかりと見ていく。
「…うん、かわいいじゃないか。これなら大丈夫だな」
何が大丈夫なのかは分からないが和馬はそう言って理帆の頭を撫でる。
「ちょ、ちょっとぉ、やめてよぉ。それよりさ、さっき何か言いかけてなかった?」
撫でる和馬の手を避けながら先程和馬が何か言おうとしていたのを思い出したずねる。和馬は少し考えてから
「…あ〜あれか。いやな、もし買い物の途中で理帆が漏らしてもおむつしてれば大丈夫だなって言おうとしたんだよ」
和馬はこともなげに言うが言われた理帆にしてみれば忘れたい出来事だった。理帆は顔を真っ赤にして和馬のすねを蹴り飛ばす。
「った〜、なにするんだよ?」
「知らないっ。和馬のばかぁ」
それだけ言って理帆はイスに飛び乗って頬杖をついている。
蹴られた理由の分からない和馬は首を傾げ、痛みをこらえながら自分の身支度をするのだった。


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