Days〜二人の日常〜 1話




俺は水島拓。この春から両親が海外に転勤することになり、念願の一人暮しをしている。
が、さすがに広いマンションに一人で暮らすのも飽きてきた。そんなある日親父から電話がかかってきた。


「もしもし、拓か」
「ああ、一体何の用?めったに電話なんてかけてこないのに、珍しい」
「なに、たいした用じゃないんだが…実は家族が一人増えることになってな、それでその娘はお前と一緒に住むからな」
「…は?何いってんの?ちゃんと分かるように説明しろよ」
「とにかく詳しい話しはそっちに着いたら話すよう言ってあるからな、それじゃあ」
「あっおい、ちょっと、まっ…切りやがった…」
拓の静止もむなしく父親は電話を切ってしまった。
「しかし、何だったんだ、まったく。まあいいか、本当かどうかも怪しい話しだしな」
拓は溜め息を着きながら受話器を降ろし、ソファに寝転がりそのままうとうとしだした。
ピンポーン
「すいませーん、宅配便です」
しかし拓は5分もしないうちにチィイムに起こされた。
「ったくなんだよ、人がせっかく寝ようとしてたのに」
拓はブツブツ言いながらドアを開ける。
「あっ、水島さんですね。お荷物お持ちしましたので受け取りのハンコかサインを」
宅配員はそう言って紙を差し出す。拓は差し出された紙を受け取るとサインをして宅配員に渡す。
「はい、確かに。お荷物お運びしましょうか?」
宅配員はサインを確認するとそう言う。拓は不思議に思いながらも、どうせ重いものだと思いその言葉に頷く
「それじゃあ、お願いします。手伝いましょうか?」
「そうですか、それじゃあ…」
宅配員は一歩下がってチラッと横を見る。拓も思わず身を乗り出して覗き込む。
「げっ、なんですかこの荷物の量。ほんとにうち宛ですか」
拓はあまりの荷物の多さに驚き、さっき自分でサインしたことも忘れ、宅配員にたずねる。
「ええ、確かにすべての荷物が水島拓様宛てとなってますが…どなたか引っ越されるんですか?」
宅配員はそう言いながらダンボール箱を抱え家の中へと入っていく。
「これ、ここに置けばいいですか?」
「あ、はいその辺に置いといて下さい」
拓はそう言ってから自分もダンボール箱を抱える。が、以外に重かったようだ。
「重っ中身なんなんだよ…よっと」
拓はブツブツ言いながら、リビングにフラフラと歩いていった。


「しっかし、何なんだよこの大量の荷物は…やたら重いしなぁ。…衣類かもとか言ってたな」
拓はソファに座りながら、目の前の確実に十個以上はあるだろうダンボール箱見ながらコーヒーをすする。
「差出人は…水島唯?聞いたことねーな。でも名字がいっしょっつーことは親戚ってことか…放っとこ、変なモンだったらやだし」
拓が荷物を片付けるのをあきらめ、コーヒーを飲みながらテレビを見ているとチャイムが鳴る。
「ったく、次から次へと…」
拓はカップをテーブルに置き玄関に向かう。のぞき穴をのぞくと少女が一人立っていた。
「おんな…のこ?」
拓はとりあえずカギを外し、ドアを開ける。すると拓がしゃべるより早く少女が口を開く。
「あ、あの…水島拓さん…ですか?」
拓はいきなり問いかけられ少しとまどったが
「え、ああ、そうだけど…キミは?」
と、明らかに自分より年下の少女に聞き返す。すると少女は慌てて
「えっ、あっ、ごっ、ごめんなさい。わたしは坂本…じゃなくて、水島唯と言います」
少女は少しオドオドした様子で名前を言い、ペコリとおじぎをした。
拓は改めて、少女:唯を見る。自分よりは2〜3歳は年下だろうか、幼さは残って見えるが整った顔立ちに腰の辺りまで伸びる髪が良く似合っている。
そしてなぜか、少し大きめの旅行カバンを持っていた。
「あの〜…拓さん?わたしの顔に何か付いてますか?」
呼ばれて拓が唯の方を見ると不思議そうな顔で自分を見つめている唯と目が合う。
「いや、何も付いてないが…それで俺に何か用?」
「あっはいっ、実はそのぅ…」
唯はそう言ったきり下を向いてモジモジしだした。
「ここでは言いにくい事か?」
「…はい」
「…」
「…」
しばしの沈黙。拓がどうしようか考えていると沈黙を破るようにリビングで電話が鳴る。
「まあ、立ち話もなんだし、とりあえず上がらないか?」
「…そうですね、それじゃあ、おじゃまします」
唯は拓がリビングに向かうのについてゆく。
「ちょっと座って待ってて」
拓が受話器を取って、ソファを指差すと、唯は微笑を浮かべながらソファに腰掛ける。拓はそれを見て話しを始める。
「もしもし?」
「ああ、拓か。唯はもう着いたか?」
「あ?なんで親父が名前知ってるんだよ。それにどうしてうちにいるって知ってるんだ?」
「なんだ、まだ何も聞いてないのか。まあいい、とりあえず唯はお前と一緒に暮らすことになるからそのつもりでな。それじゃ」
「おい、ちょっと、まっ…また切りやがった。…ったく」
受話器を降ろし、唯の方を振り返ると何やら不安そうな表情でこちらを見ている。
「悪いな、待たせちゃって。コーヒーでいいかな?」
拓がカップを取り出して唯に問いかける。
「あっはいっ」
唯は短く返事をするときょろきょろと部屋の中を見回す。
「はい、どうぞ」
「あっ、すみません…あの…一人で住んでるんですか?」
「えっ、そうだけど?…そろそろ用事話してくれないかな。気になることもあるし」
「はい。実はですね、わたしと拓さんは兄弟なんです。それでわたしはここで拓さんと一緒に住むことになったんです」
「はい?今なんて言った?」
「え?だからわたしが拓さんと一緒に…」
「ちがうっ、その前だ。誰と誰がなんだって?」
「だから、わたしと拓さんが兄妹だと言ったんです」
拓は事情はよく分からないが、とりあえず残った気力をその一言に集める。
「マジか!」
すると唯は拓の目をまっすぐに見つめ極めてまじめに
「まじですっ!」
と、言い返す。その言葉を聞いた瞬間、拓は軽いめまいを感じ、テーブルに手をつく。
「あっ、拓さん。大丈夫ですか?」
テーブルに手をつくのを見て、立ち上がろうとする唯。拓はそれを手で制して
「ああ、大丈夫だ。それよりもっと詳しく話してくれないか?」
「詳しく…ですか。どの辺りから話せばいいですか?」
拓の言葉に唯は少し表情を曇らせる。拓は気を使い
「あのさ…話したくないなら無理に話さなくてもいいけどさ…」
と言った。すると唯は
「いいえ、やっぱりちゃんとお話しします。大事なことだから」
と拓の方をまっすぐに見て言った。


「…とゆう訳です」
唯が拓の家に来た理由を話し始めてすでに1時間以上が経っていた。
「なるほど。つまりまとめると、半年前に唯の両親が交通事故で二人とも亡くなって…」
拓は唯から聞いた話をまとめて復唱する。唯はそれを聞きながらうなずいている。
「親戚の所を転々としてたら、うちの両親が養女として引き取るっていったけどうちの両親は海外だから俺のとこに来た、とゆう事でいいんだな」
拓が話し終わると唯は「はいっ」とうなずく。
「つーことは、あの大量の荷物はやっぱりお前のか」
そう言ってリビングの隅にある荷物の山を指差す。
「えっ荷物?もう届いてたんですか?」
「ああ、ついさっきな。かなり重かったぞ。」
「えっ、あっ、ごめんなさい。急いで荷造りしたからいろいろ混ざっちゃって」
唯は荷物の方を見てから、拓の方を見てペコリと頭を下げた。
「まあ、荷物の事はいいとして、なんて呼べばいいかな」
「?わたしの事ですか?そうですねぇ…唯でいいですよ。それよりわたしは拓さんの事なんて呼んだらいいですか?」
唯は少し恥ずかしそうに聞いてくる。拓は予想外の質問に戸惑いながらも
「え?そうだな…唯の呼びたいように呼んでくれればいいけど?」
と答える。すると唯はうれしそうに
「そうですか?それじゃあ…兄さんって呼んでもいいですか?」
「えっ…まあ、いいけど」
拓は想像はしていたが実際に呼ばれるとなんだかくすぐったく感じたようだ。
「それよりさあ、唯」
「なに、兄さん?」
「その、なんだ、俺達兄妹なんだからさ、敬語使うのやめないか、お互いにさ」
唯は少し考えていたが
「ん〜そうだね。じゃあ、もう敬語使わないね」
笑いながらそう答えた。
「さてと、それじゃあ唯の部屋決めちまうか」
「え、部屋?余ってるの?」
「ああ、確かひとつは物置にしてるから、一部屋余ってるな」
「じゃあ、荷物運んじゃう?」
「まあ待て、唯。あの部屋はぜんぜん使っていない、とゆうことは当然?」
「…ホコリまみれ?」
「そゆこと。つまり最初にする事は部屋の掃除、それからいる物の買出しってとこだな」
拓がとりあえずやるべき事をリストアップしてゆく。唯はそれを聞きながらうなずいている。
「それじゃあ、やろっか」
唯は立ち上がり腕まくりまでしている。やる気十分のようでそのまま部屋に向かっていく。
「よし、そんじゃやりますか」
拓もそう言って立ち上がり、これから唯の部屋になる使われていない部屋に向かっていった。


「まあ、こんなもんか。以外に早く終わったな」
拓はきれいになった部屋を見回してつぶやく。
「そうだね、兄さん。物が無いからやりやすかったしね」
唯は仕上げにモップを掛けている。
「よし、唯もういいだろ。片付けて買い物に行くか」
すると唯は、モップを掛けるのを止め、拓にモップを渡し
「うん、わかった。あっでもその前に着替えるからちょっと待ってて兄さん」
と言い残して、リビングに向かう。
「着替えって、まだ荷物開けてないよな…あのカバンの中か?」
拓がそんな事を考えていると、予想通り唯が旅行カバンを持ってリビングから出てきた。
「あの・・・兄さん?」
唯が部屋でカバンを開けながら後ろに立っている拓に遠慮がちに声を掛ける。
「ん?どうした唯。なんか足りないものでもあったか?」
拓はまったく気付いていない様子で答える。
「いや、そうじゃなくて…あの…兄さん?着替えようと思うんですけど…」
唯は拓の方を向き着替えの服を胸の前で抱きしめながら、拓に訴える。ようやく気づいた拓は
「えっ、あ、ああ、悪い。お、俺も着替えるから先に終わったら呼んでくれ」
そう言い残し、顔を真っ赤にしながら急いで唯の部屋から出て行った。唯は閉じられたドアを見ながら
「ふぅ…兄さんって・・にぶいのかなぁ?」
と、唯はしみじみとつぶやく。


「唯〜まだか〜?」
拓はすでに着替え終わり、唯の部屋の前で彼女を呼んでいる。
「今いく〜」
唯の元気のいい声が響き、ドアを開け唯が出てくる。
「お待たせ、兄さん」
さっきまでは動きやすそうなパンツルックだったが、今はシャツとワンピースの組み合わせに着替えている。
「準備できたか?」
「うん、わたしはオッケーだよ。兄さんは?」
「大丈夫。サイフも携帯も持ったし、いる物もメモったしな」
拓はそう言ってズボンのポケットを叩く。
「それじゃあ、いこっか」
唯はそう言って玄関のドアを開ける。
「よし、そんじゃ行きますか」
拓も唯に続き、ドアを閉める。
「ねぇ、ところで兄さん?買い物ってどうやって行くの?」
カギを閉め終え、一歩を踏み出すと同時に唯が当然の疑問を投げかける。
「ん?何言ってんだよ唯。歩く以外に何か方法があるか?」
拓はさも当然のように言う。すると唯は
「え?歩き?冗談でしょ兄さん。自転車ぐらい持ってるよね」
と、聞き返す。唯は拓の言った事を信じていないようだ。しかし拓は
「ん、チャリ?持ってないけど。必要無いからな」
と、唯の希望を打ち砕いた。唯は信じられないといった表情で
「でも、学校は?結構距離あるんじゃないの?」
エントランスを抜けた辺りで唯が尋ねる。すると拓はある建物を指差し
「ふ、残念だったな唯。あいにくと学校はここから徒歩約20分だ。それに商店街もここから近いしな」
唯は拓の指差す方を見やる。そこには確かに学校らしい建物が見える。
「ふ〜ん、あれが兄さんの通ってる学校なんだ」
「まあな。…でも、多分唯も通う事になると思うぞ?」
「ふ〜ん…え?でも兄さん、わたしまだ中学だよ?兄さんは高校でしょ?」
唯は良く分からないと言った感じで聞き返してくる。
「あれ、言ってなかったっけ?うちの学校、高等部と中等部があるんだよ」
拓はしみじみと言う。
「へぇ〜そうなんだ。珍しいね〜」
唯は納得したようでウンウンと何度も頷いている。
「それよりさ、兄さん。ちゃんとどこに何があるのか教えてよ。買い物行くとき困るからね」
唯は拓の前にピョンと飛び出し、拓を見上げる。拓はそんな唯のしぐさに思わずドキッと見とれてしまう。
「兄さん?お〜い、聞こえてる?」
唯は拓の目の前で手をヒラヒラと振る。拓はそれで我に帰りまた歩き始める。
「ねぇ兄さん。ちゃんと聞いてた?」
唯は頬を膨らませながらしつこく聞いてくる。
「ん?ああ、大丈夫、ちゃんと教えてやるから。とりあえずはあそこから行くか」
そう言って拓は町の中心にある大きな建物を指差す。
「あれ…デパート?そう言えば何買うの?」
唯は歩きながら拓にたずねる。拓はポケットからメモの紙を取り出し
「え〜っとな…まずは唯のベッドだろ、それから三段ボックスだろあとは…」
拓は次々と買う物を読み上げる。唯は感心したように拓を見上げている。
(へ〜兄さんって以外にしっかりしてるんだ。それにちょっとかっこいいかも)
唯は思わず拓に見とれてしまう。そのせいですぐ目の前にある電柱に気付いていないようだ。
「唯、あぶないっ」
拓は唯の手を取り、自分の方に引き寄せる。結果、唯が拓に抱きつく格好になる。
「きゃっ、ちょっと、兄さん?」
唯は状況がわからず、顔を真っ赤にして拓の胸に頭を預けている。
「ちゃんと前見て歩けよ。もうちょっとで電柱にぶつかるとこだったんだぞ」
拓は目の前にある電柱に唯の顔を向ける。唯は拓の胸から離れながら電柱を見やる。
「え?あ…うん。ありがと、兄さん」
唯はそう言いながら真っ赤になった顔を手でパタパタとあおいでいる。拓はそんな唯を見て
「唯?暑いか?」
今は6月中旬で少しずつ暑くなってきてはいるがそんなに暑くはないよな?と拓は不思議に思い声を掛ける。
「えっ?ううん、大丈夫よ」
唯は胸に手を当てて答える。
(はふ〜まだどきどきいってるよ〜。相手は他人だったとはいえ今は兄さんなんだし…)
唯はそんな事を考えて、また顔を赤くするのだった。


「すっかり暗くなっちゃったね、兄さん」
唯は持っていた荷物を地面に置いて伸びをしながら隣の拓を見る。拓も唯の方を見ながら
「そうだな、飯食ってたらすっかり遅くなっちまったな。買い忘れたもんないよな?」
拓は指を折りながら買った物を確認している。唯も隣で買った品物をブツブツ言いながら確かめている。
「特に無い・・・よね?」
唯は拓に同意を求める。拓も頷きながら
「そうだな、必要な物は一通りあるだろ。後はいる時に買えばいいだろ」
と言い、荷物を持ち歩き始める。唯も頷きながら後を追う。
「ところで、唯?」
マンションに続く緩い坂道にさしかかった辺りで拓が唯にたずねる。
「なに、兄さん?」
「いや、たいした事じゃないんだけどさ、いつから学校行くんだ?」
拓はずっと気になっていた事を聞く。唯は少し考えていたが
「そういえば、手続きとかあるんだよねぇ・・・あっ思い出した、明日お義父さんとお義母さん来るって言ってたよ」
と重要な事をサラリと言う。
「ゆい〜なんでそんな大事な事今まで黙ってたんだ?」
「ご、ごめんなさい。でも黙ってたわけじゃないよ、家に着いてからいろいろ忙しかったから、その・・・」
唯はすまなそうに事情を話す。
「忘れてたってわけか。まあ、いいか別にこっちに帰って来たってどうせすぐに海外に戻るからな。ま、気にするなよ」
拓は笑いながら唯を励ます。
「そう言えば、唯は父さんと母さんに会ったことあるよな?」
「うん、前に何回か会ってるよ」
「なら、まあ、明日留守番してもらっても大丈夫か」
拓は頷いている唯を見てボソッとつぶやく。それを聞いた唯は
「あっ兄さんひどーい。わたしだって中学生だよ、留守番ぐらい一人でできろよ〜。それに家以外のどこにいればいいのよっ」
拓はちょっとからかっただけなのだが唯はかなり怒ったようで歩調を上げ、一人マンションに入っていった。
「あら?冗談だったのにな。ま、いいか、どうせ俺が行かなきゃ開かないだろうし」
拓は笑いながらそう言ってマンションに歩いていく。
「う〜番号忘れたよぅ〜、何番だっけ〜」
拓がマンションの入り口に入ると、予想通り、唯が番号がわからないため中に入れず困り果てていた。
「やっぱりな、こんな事だろうと思ったよ。ちゃんとロックの番号ぐらい覚えとけよな」
拓はボタンを押しながら唯の方を見て言う。
「うん・・・。来た時はちゃんと覚えてたのになぁ」
唯は俯いて悔しそうにつぶやく。拓は笑いたいのをこらえながら
「まあ、最初の頃はそんなもんだよ。あとで紙に書いといてやるから」
「うん・・・ありがと、兄さん」


「はぅ〜つかれたよ〜」
「そうだな〜歩きっぱなしだったからな」
家に帰るなり二人とも荷物を投げ出して、ソファに身を投げ出していた。
「兄さん、なにか飲む〜?」
唯が冷蔵庫に向かって歩きながら拓に聞く。
「ああ、そうだな・・・ジュースがあったはずだから」
「わかった〜」
拓の言葉を聞いて、唯は冷蔵庫の中を探し始める。
「あったか?」
「うん、あったよ」
そう言ってペットボトルとコップを二つ持って戻ってくる。
「はい、兄さん」
「おお、サンキュ」
拓はコップを受け取ると一気に飲み干す。唯はコップに口をつけたまま拓を見て固まっている。
「ふう、うまかった。ん?唯どうした、なに固まってるんだ?」
拓は空のコップにジュースを注ぎながら固まっている唯に話し掛ける
。 「えっ?いや、その・・・兄さんってすごく美味しそうに食べたり飲んだりするなぁーって思って」
唯はジュースを一口飲んでから遠慮に言う。すると拓は
「やっぱそうか?友達にも言われるんだけど・・・そうかぁ」
と考え込んでしまう。唯は慌てて
「でっでも、それはいいことでしょ。別に考え込まなくてもいいと思うよ」
とフォローしながら微笑む。すると拓も
「そうだな、別に悪い事じゃないしな。ありがとな唯」
と笑いかける。唯は拓の笑う顔を見て自分の顔が熱くなるのを感じ
「それじゃあ、わたし部屋の片付けしてくるね」
と言い残し、慌てて部屋に向かっていく。
「唯のやつなんだかなぁ・・・フロでもためといてやるかな」
拓は唯の様子を変に思いながら、浴室に向かう。


「ふう、ま、今日のところはこんなとこかな。まだ家具がなんにもないしね」
唯は部屋を見回して満足そうに一人つぶやく。
「そう言えば、わたし今日はどこで寝ればいいのかな?布団は明日届くわけだし」
唯は少し考えていたが拓に聞くのが一番だと思い拓の部屋に行こうとドアを開けようとした時ドアがノックされる。
「唯〜、フロたまったから先に入れよ」
と言うと拓はすぐに自分の部屋に戻っていく。唯はドアに向かって「わかった〜」と叫ぶ
唯はかんじんな事を聞くのを忘れていたのを思い出したが、後で聞けばいいやと思い替えの下着とパジャマを取り出すため、旅行カバンの前に座り込む。
「あ、そういえば着替えの服って全部荷物の中だっけ。どうしよう、もう明日着る服しか残ってないし・・・兄さんに頼んでみようかな」
唯は仕方なく、下着だけを持って拓の部屋に向かった。
「兄さん、ちょっといいかな?」
唯は拓の部屋のドアの前に立つとノックをしてからそう言った。
「ああ、入っていいぞ」
「うん、おじゃましま〜す。・・・ふ〜んここが兄さんの部屋なんだ」
部屋に入った唯はキョロキョロと落ち着かない。
「んで、どうしたんだ?」
拓はテレビから唯の方に顔を向け、話しを進めようと話しかける。
「えっと・・あの・・その・・・」
唯は下を向き指を絡ませながら、言いにくそうにモジモジしている。
「え?なんだ、ちゃんと言わないとわからないだろ」
拓は優しい口調で話す。唯はその言葉で決心したのか、まっすぐに拓を見て
「うん、あの・・実は着替えの服がもう明日の分しかなくってパジャマも無いの。
それでにいさん、何か代わりになるような服、貸してくれない・・かな?」
唯はそれだけ言うと顔を真っ赤にして下を向いてしまう。
「わかった、探して持ってくからフロ入っとけよ。大丈夫、のぞいたりしないから」
拓は立ち上がり衣類が入っているらしいボックスに歩きながら言う。
「うん、わかった。ありがと、兄さん」
そう残して唯は拓の部屋を出て行った。
「パジャマの代わりになる服ねぇ・・・まあ、適当に持っていけば唯が自分でいいのを選ぶだろ」
拓はボックスの中から数枚の服を取り出し浴室へと向かう。
「そういえば、シャンプー切れてなかったっけ?確か今日買ってきたはず」
拓はシャンプーが切れていることを思い出し、買い物袋の中から取り出す。
「唯、とりあえず何枚か服持ってきたから置いとく・・・ぞ・・・」
拓はそう叫びながら脱衣所へのドアを開ける。すると、正面に立っていた下着姿の唯と目が合い固まってしまう。
唯の方はと言えば、ブラジャーを外そうと背中に手を回している時に拓が入って来たため胸を手で隠す事も出来ずにそのまま固まっている。
「・・・」「・・・」
しばらく脱衣所に気まずい空気が流れ沈黙が続く。
「・・・あの・・・兄さん?」
唯はとりあえず拓に声を掛ける。拓は唯の体を上へ下へとじ〜っと見ている。
「ん、ああ・・・えっと着替えここに置いとくからな。あと、シャンプー切れてるからこれ使ってくれ」
拓はそう言い終わっても出て行こうとはしない。唯は腕で胸を隠しながら
「兄さん、どこ見ながら話してるのよっ、用が済んだんなら早く出てって」
と、怒鳴りあげる。拓はさすがにまずいと思い脱衣所のドアを閉める。
「まったく、もう兄さんったら・・・ま、いっか、裸見られたわけじゃないし」
ブラジャーにショーツの姿も全裸とほとんど変わらない気もするが、唯は全く気にしていないようでまた脱ぎ始める。
「それにしても、この家って兄さん一人で住むには広すぎると思うんだけどなぁ。でもおフロが広いのはうれしいな。お掃除するのは大変そうだけど」
唯は広い浴室を見渡しながら感想をつぶやく。
「ふぅ、気持ちいい。荷物の本格的な片付けは明日かなぁ。明日は兄さん学校だし、お義父さんとお義母さんが来るまで一人っきりかぁ・・・つまんないなぁ。体洗おっと」
唯は湯船につかりながら明日の予定を考えていたが、体を洗おうと思い湯船から上がる。
「はぅ〜、それにしてもやっぱり下着姿見られたのはショックだよ〜。ブラしてたから胸が小さいのわからなかったと思うけど・・・もっと大きくならないかなぁ胸。やっぱり兄さん、胸は大きいほうがいいのかな?」
唯はスポンジで体を洗いながら、身長と同じく悩みの種である年相応より小さいだろう胸を触りながらため息混じりにつぶやく。
「そろそろ上がろっかな、兄さんも待ってるだろうし。そういえば、兄さんちゃんと着替え持って来てくれてたみたいだけど、どんなの持って来てくれたのかな?」
唯はタオルで体を拭きながら拓の持ってきた服を手に取る。
「えっと、Tシャツに、カッターシャツか、後は・・・バスローブ?なんでこんなのが普通の家にあるの?」
唯はバスローブの存在に驚きながらも、下着を着て拓の持ってきた服を着てみる。
「う〜ん、バスローブは問題外としてぇ、まずはTシャツかな・・・う〜ダボダボで寝にくそうだし、胸が見えちゃうよ、Tシャツはダメね。それじゃあカッターシャツか・・・ん〜ちょっと大きいけど胸が見えることは思うけど、パンツが見えそうなのよね。・・・ま、大丈夫かなぁ」
唯はシャツの裾から下着が見えそうなのを気にしつつも、拓の部屋へと向かった。


「兄さん、いいかな?」
唯は拓の部屋のドアを少し開いて、中をのぞきながら言う。
「ああ、いいぞ」
拓は勉強でもしていたのか、机に向かっていた。
「ごめんね、兄さん。勉強してた?」
唯はそう言って拓の横に立ち、机の上を眺める。
「まあな。でも、もう終わったし。どうした?」
「うん、えっと服ありがと、ちょっと大きいけど・・・ね。これありがと」
唯はそう言って笑いながら裾の部分を手で押さえる。着なかった残りの服を拓に渡しながら
「ねぇ、兄さん。わたし今日どこで寝ればいいのかな?」
「あっ、そうだったな・・・」
拓は唯の言葉で考え込んでしまう。
「あの、兄さん?」
「ちょっと待ってろ、唯」
拓はそう言って再び考え込む。唯は仕方なくベッドに寝ころがる。
「別に、わたしは寝れればどこでもいいよ〜」
「そういう訳にもいかないだろ。疲れてるだろうし、それに女の子なんだからさ・・・」
拓はそう言い終わって急に立ち上がり
「そうだ、唯お前ここのベッド使っていいぞ」
と言って、押入れを開ける。
「え、それはうれしいけど兄さんどこで寝るの?」
唯はベッドの上に座り直して拓に聞く。拓は押し入れから毛布を引っ張り出して
「いや、リビングのソファが一つソファベッドになるから、そこで寝ようかなと」
拓はリビングの方を指差して言う。
「えっでも悪いよ」
「いいから、いいから。明日も忙しいんだから、今日はゆっくり休めよ。フロ入ってくるからな」
そう言って拓は部屋を出て行く。
「もう、兄さんったら強引なんだから・・・ま、いっか」
唯はそう言ってベッドに横になる。
「水島拓兄さん・・・か。まさか、今になって兄さんができるなんてね、なんか変な感じ・・・」
唯は天井を見上げながらつぶやく。しかし、その表情は言葉とは違い、とてもうれしそうに笑っている。
「まあ、いいや。なるようになるよね・・・そんなに、悪そうな人じゃ・・・なさそうだし・・・」
唯はそう言いながら、そのまま眠ってしまった。


「唯〜フロ上がったから・・・な・・・。なんだ寝ちゃったか。ま、疲れてただろうしな」
拓は微笑を浮かべながら、布団を掛けてやる。拓が唯を見ていると突然唯が
「ん・・兄・・・さん・・・」
と寝言を言う。拓はいきなり名前を呼ばれ、少し驚いていたが
「なんだ、寝言か。おやすみ唯」
拓はそう言い残して部屋を後にする。
「それにしても、今になって一つ下の妹ができるとはな。ゲームとかならかなりおいしい展開なんだけどな〜。俺、大丈夫かな」
拓はソファに寝転がりながらつぶやく。
「しっかし、あれで一つ下とは、どう見たって2つ下ぐらいだよな。成長止まってんじゃないのか、あいつ。クラスメイトには言えねーな絶対。
そのうちばれるだろうけど、とりあえず言わないように気をつけないと」
拓はそう言って、目をつぶった。


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